社説:仙北市、医療マース導入 市民の健康維持に期待
仙北市は本年度、看護師らが車両で患者宅を訪問し、医師が遠隔で診療する「医療MaaS(マース)」を導入する。医療機関が遠い中山間地域の患者らに充実した医療を提供し、重大な病気の早期発見などで健康維持への貢献が期待される。市民の健康寿命を延ばし、高齢者らの通院負担を軽減して地域医療の質向上を実現してほしい。
マースは「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の略。情報通信技術(ICT)を活用した移動支援サービスのことだ。医療マースは交通弱者である患者宅などを医療機器や通信機器を搭載した車で訪れ、離れた場所にいる医師とオンラインでつなぐことで診察を行えるようにする。
仙北市の65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は44・3%。高齢者の2割を超える2300人余りが1人暮らしだ。市の面積は約1094平方キロメートルで県内市町村では3番目の広さ。医療機関が遠く、車を持たない市民や運転免許を返納した高齢者らには通院の負担は大きい。
市によると、「家族に送迎を頼むのは申し訳ない」「タクシー代が高くて大変」などという声が少なくない。こうした事情が受診控えにつながれば、市民の健康にとって大きな不安要素となることが懸念される。
交通弱者や高齢者が自宅で医療を受けられるようにすることで、市民の病気の早期発見・治療につなげたい。高齢者の増加に伴い在宅医療のニーズは今後も増えると見込まれており、対応に追われる医師にとっては診療の効率化に寄与するだろう。
移動診療車は、市が国のデジタル田園都市国家構想交付金を活用し1台を導入する。電子聴診器や血圧計、心電計、超音波(エコー)などの医療機器や通信機器を搭載する。事業費は約4千万円でワゴン車の購入や改装、各種機器や電子カルテシステムの導入などに充てる。
西木地区の西明寺診療所が協力。週1回、地区内で訪問診療を行うことにしており、年明けにサービスを開始する予定だ。
看護師が計測した各種データに基づき、診療所の医師がオンラインで診察。専門的な診察や治療が必要な場合には、市内の病院にオンラインでつなぐシステム構築も想定する。ニーズを踏まえながら将来は対象エリア拡大を視野に入れている。
医療マースは全国的にも先進的な取り組みであり、安全、安心な医療サービスの確立を目指してほしい。災害時の避難先での医療提供などでもマースを生かす可能性を探りたい。
仙北市に限らず県内では人口減少や高齢化が進み、医師の不足や偏在などの問題も浮上している。交通弱者の住民にも確実に医療を提供するためには、医療マースは有力な選択肢となり得よう。仙北市の取り組みが軌道に乗り、本県の地域医療のモデルとなることを期待したい。