【小堺一機の楽しみかけ流し #4】コワイコメディアン映画 笑いにはどうぞご注意を
毎日「楽しいことばかりやっている」と言うタレント・小堺一機さんが見聞きしたことや、日々考えていることをつづる連載第4回。
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映画「ジョーカー」を13回見た。事務所の人に言ったら「もうやめてください! 怖いです!」と言われてしまいました。
なぜそんなにこの映画にハマってしまったのか? まずは主人公がコメディアンになりたい恵まれない若者だということ。そしてショービジネスのリアルな描写が、僕の興味と一致したのでしょう。
ホアキン・フェニックスが演じる主人公アーサー、この人物には映画冒頭から運がないと分かる。コメディアンの才能もあるとは言えない。でも優しい良い人間なんです。
でもだんだんと壊れていく。引っ張られたゴムがはじけるように、善人が“悪”に染まってしまう。ドラマとしては全くもって暗く、救いようのない話です。
ロバート・デニーロ演じる人気トークショーの司会者のギャグも、実は全く面白くないんです。有名だからと言うだけで客は笑っている。
“同業”の僕からしたら「おまえはどうなんだ! おまえはどうなんだ!」と、映画を見ている間中、問われ続けている気分になり、スクリーン上の出来事がひとごとではなくなってしまいます。
法律上、罪には問われないような人々の心ない行動が、主人公を追い詰め、罪を犯す人間に変えてしまう。どっちが“悪”なのか? そして“笑い”とは何なのか?
この映画で思い出す作品が「キング・オブ・コメディ」です。こちらはデニーロがコメディアンを目指す若者を演じています。「ジョーカー」のスタッフが、デニーロを起用したのは、この映画があってのことでしょう。
20代の終わり頃、映画館で初めて「キング―」を見た時、やはりショービジネス界をあまりにリアルに描いていて「こういう人、本当にいる!」とショックを受け、見終わってからトイレにこもってしまったほどでした。
「笑い」は実は“明”も“暗”も提供するのかもしれませんね。皆さんもハマる映画と笑いに、どうぞご注意を!(タレント)
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こさかい・かずき 1956年千葉県生まれ。84~2016年「ライオンのごきげんよう」などフジテレビ系昼のトーク番組を司会。同局系ドラマ「女神(テミス)の教室 リーガル青春白書」(1~3月期)出演。著書に「映画はボクのおもちゃ箱」。