社説:ICT教育支援員 由利本荘を先進事例に
国の「GIGAスクール構想」に伴い、2021年から県内でも小中学生にデジタル端末が1人1台貸与されるようになった。情報通信技術(ICT)を活用した教育を進める上で課題となるのは、教員や児童生徒を手助けする「ICT支援員」の確保と能力向上だ。
ICT支援員は民間のIT技術者などが務める例が多い。そんな中、由利本荘市教育委員会は22年度から、市内にキャンパスがある県立大の学生に支援員を務めてもらう独自事業を展開している。支援のノウハウを蓄積し、県内の先進事例として教育現場のICT活用をけん引してほしい。
市教委の事業は「ゆりほんICT子供の学びアップデートプラン」。情報工学などを専攻する県立大生を支援員に起用した。派遣先は23の小中学校。現在、大学院生を含む32人が登録され、1校当たり2、3人で担当している。
支援員は学校を原則週1回訪問。国語や算数・数学、社会、総合的な学習などの授業でタブレット端末の操作を中心に児童生徒にアドバイスを行う。教員の質問に答えることもある。今後はクラブ活動や学校行事の準備などにも加わってもらい、活躍の場が広がる見通しだ。
児童生徒にとって学生は年齢が近く、親しみやすいのもメリット。学生は児童生徒の理解度に合わせて工夫を凝らすなど意欲的だという。教員にとっても専門知識を持つ人材からのバックアップは心強いだろう。
こうした体制を構築できたのは、地元の産学官連携の拠点である本荘由利産学共同研究センターや、県立大OBが起業したITベンチャー企業と連携できたことが大きい。企業に学生をアルバイトとして雇ってもらい、アルバイト代は市教委が負担。企業は学校側と日程などを調整した上で学生を派遣する。
県外出身の学生が支援員を務める例も多い。地域との交流を深めるきっかけにもなってほしい。学生が児童生徒に教える経験を積む中で本県への愛着を深め、県内定着につながることも期待されよう。
初年度の22年度予算は4380万円だった。23年度は2020万円を計上し、プログラミング学習や3Dプリンターを使った体験事業なども計画している。児童生徒のICT活用能力の向上と、それを通じた多様で効果的な学習活動の実現につなげたい。
文部科学省は支援員を4校に1人配置することを目標に掲げる。本県は21年度末時点で計354校に対し64人。充足率は72%だった。
生まれた時からインターネットに触れる環境で育った「デジタルネーティブ」の若者の能力活用の取り組みは、由利本荘以外の市町村でも参考になるのではないか。由利本荘が先進事例となり、他市町村に波及することが期待される。