社説:H3打ち上げ失敗 原因究明、信頼回復急げ
日本の宇宙開発技術が国内外の信頼を失いかねない事態と言えそうだ。新型主力機として注目された2段式液体燃料ロケット「H3」の1号機が、打ち上げに失敗した。昨年10月の小型固体燃料ロケット「イプシロン」6号機に続く失敗となり、日本にとっては痛手だ。
当初の予定から遅れていたH3の開発スケジュールは、さらに遅れることが避けられない。火星探査や衛星打ち上げビジネスなどへ早期に参入するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などは徹底して原因を究明し、打ち上げ成功にこぎ着けて信頼回復を急ぐべきだ。
H3は2001年に登場した現在の主力機「H2A」の後継で、JAXAと三菱重工業が14年から開発を進めている大型ロケット。H2Aに比べて衛星の搭載能力を1・3倍に高め、打ち上げコストを約50億円に半減することを目指す。
2月17日には1段目の主エンジンに点火したが、固体ロケットブースターを点火させる電気信号が出ず、エンジンが自動停止した。今月7日の再挑戦では飛び立った後、2段目エンジンが点火しなかったため、地上からの指令で搭載していた地球観測衛星ごと破壊した。
1号機の打ち上げは当初20年度に予定されていたが、主エンジンの開発にトラブルが続き延期を繰り返した。遅れを取り戻そうとするあまり、点検作業におろそかになった点はなかったのか。検証する必要がある。
点火しなかった2段目エンジンは、打ち上げ成功率約98%と実績のあるH2Aの改良型だ。JAXAは点火するタイミングの前後で電源系統に異常が起きたとしている。
改良型とはいえ、実績のあるエンジンに対して過信はなかったのか。H3向けに新たに開発した技術に問題があったのか。こちらも検証が求められる。
H3の開発が成功すれば、国際宇宙ステーションや米国主導で建設される月周回基地ゲートウエーに物資を届ける新型無人補給機の打ち上げに活用される計画もある。日本は24年度に火星探査機を打ち上げる計画だ。今回の失敗は、これらに影響を及ぼしかねない。
またイプシロンの打ち上げ失敗を受け、H3の一部の部品を変更した経緯もある。H2Aは24年度の引退が決まっており、増産は困難。国産ロケットの打ち上げを当面見合わせざるを得ない事態も考えられる。
衛星の打ち上げ需要は世界的に高まっている。そうした中で国産ロケットの打ち上げは昨年、18年ぶりに成功ゼロに終わった。ここは開発を前に進め、打ち上げ成功の実績を積み重ねることが急務だ。
失敗の原因究明が長引けば信頼はますます失われ、市場参入の道が狭まる恐れがある。原因究明の段階から積極的に情報を発信し、開発の確かな道筋を世界に示していく必要がある。