社説:春闘スタート 賃上げの流れ中小にも
歴史的な物価高の中、2023年の春闘がスタートした。労使双方のトップが賃上げを実現する方向性で一致しており、物価上昇を超える上げ幅になるのかが焦点。賃上げを大手企業だけでなく中小企業にも波及させ、経済の好循環につなげる転換点にしてほしい。
昨年12月の全国消費者物価指数は前年同月比4・0%上昇し、41年ぶりの伸び率となった。ウクライナ危機などをきっかけとした物価高は歯止めがかかっていない。そのあおりで実質賃金は11月まで8カ月連続で前年割れとなっている。
物価上昇に賃金上昇が追い付かない状況は深刻だ。これを放置すれば個人消費の減速は避けられない。賃上げの上げ幅や業種・規模の広がりは、景気の維持拡大に向けた鍵と言えよう。
経団連は春闘の指針で賃上げを「企業の社会的責務」と位置付け、会員企業に基本給を底上げするベースアップ(ベア)の前向きな検討を要請している。連合はベア3%、定期昇給分を合わせ5%程度の賃上げを要求している。28年ぶりの高水準という。連合秋田は本県の賃金水準を踏まえ6%程度とした。
呼応するかのように賃上げを表明する大手企業が相次ぐ。ユニクロを運営するファーストリテイリングは、人材確保を見据え国内正社員の年収を最大約4割上げる。サントリーホールディングスは月収ベースで6%上げることを検討している。
重要なのはこうした賃上げの動きが中小企業にも広がることだ。労働者全体の約7割を占めるのが中小企業。賃上げの原資を確保することが必要だ。
中小が大手との取引でコスト上昇分を適切に価格に反映できる環境が求められる。その必要性について経団連と連合の認識は一致している。取引を監視する公正取引委員会の役割も大きい。生産性向上などの中小企業支援を行政や商工団体が手厚くする必要もある。
これまで賃上げが進まなかった理由として、労使が賃上げより正社員の雇用維持を重視してきたことが挙げられる。その結果、雇用の調整弁として非正規雇用が増え、労働者全体の約4割を占めるまでになった。非正規雇用者の待遇も改善されなければ、経済効果は限定的だ。
民間エコノミストによる23年春闘の賃上げ率予測値は、今月16日時点で平均2・85%。実現すれば26年ぶりの高さだが、それでも急激な物価高に追い付ける数字ではない。
そんな中で経営側に強く求めたいのはベアだ。ベアは賞与にも反映され、労働者が収入増を実感しやすい。
経団連は賃上げ目標の数字を掲げておらず、交渉は曲折も予想される。しかしまずは物価上昇を超える賃上げを実現し、個人消費を喚起したい。賃金も企業収益も上がる好循環の持続に向け、行政と労使が一体となった取り組みが求められる。