デザインを採集しに。 吉田勝信さん、佐々木俊さん、佐藤豊さん
現在、本紙「ハラカラ」のデザインを手がける佐々木俊さんと佐藤豊さんの登場です。山形に印刷工房を持つ吉田勝信さんの下でデザインのかけらを探し、箔押(はくお)し機で転写しました。



●印刷工房にて
吉田 これが箔押し機です。凹凸のある版を取り付けて、強い圧力で紙にバシっと押す。大きくて強いハンコって感じです。箔は、顔料層と糊(のり)となる接着層から成っていて、版と紙の間に箔を挟み、熱を加えた金属版(凸版)でプレスすることで、箔に接触する部分だけ糊を溶かして圧力で紙に定着させます。今日は紙の上に置くのは箔の代わりにカーボン紙、原版として葉っぱを置いて押してみます。

吉田がボタンを押す。「ガチャン、シュ~」箔押し機が鳴る音。

一同 お~、きれい! すごい!
吉田 世の中のありとあらゆるものの凹凸が、原版に見えてくるというのはこういうことで。かすかな葉脈の凹凸の差で、紙の上に濃いところと薄いところのニュアンスが出ています。
佐藤 じゃあ、(家から持ってきた)松ぼっくりはどうしよう?(笑)
吉田 ちぎって、散らしてみたら?
「ガチャン、シュ~」佐藤が松ぼっくりを押す。

佐藤 なんか微妙だけどかわいい。
佐々木 木の枝とかもできますか?
吉田 はい、外にいろいろ落ちています。
外へ出て、夢中で、押す版を採集する。

吉田 これやると世界が変わるんですよ。
工房へ戻り、「ガチャン、シュ~」吉田が氷を押してみる。

一同 かっこいい! 氷って押せるの!?
佐々木 粒々がちゃんと出て、爆発した瞬間みたいだね~。
佐藤 この機械はどうやって入手したんですか。
吉田 仙台市の六丁の目ってところに印刷会社が集まった工業団地があって、そこで印刷スタジオを構えている、僕の印刷製本の師匠から譲ってもらいました。それをきっかけに、自分で印刷を始めてみようと。他にも活版印刷機があって、デザインだけでなく印刷と製本を一緒に請け負うこともあります。印刷と製本の代金で友達や学生を手伝いで呼んでここに集まれるので、製本のプロセスも共有できる。
今度は佐々木が拾ってきた葉っぱを押してみる。「ガチャン、シュ~」。

佐々木 モワ~ってなった!
吉田 植物がつぶれる瞬間に組織液が動いている感じがしますね。
佐藤 きれい、水墨画みたい。

●アフタートーク
フィールドワークとデザイン
佐々木 楽しかったですね。デザインと印刷は本来分業されているものだから、自分で触って、遊べて。吉田さんはデザイン作業の合間に山歩きもしていますよね。フィールドワークは、グラフィックデザインとどう結びついていますか。
吉田 採集がデザインを下支えしてくれます。パソコンでデザインをしていても、うーん、うまくいかないなあと長いことやっていて、これだ! という瞬間を拾っていく作業は採集に似ていますよね。非言語的な領域の知性のあり方というか。言語的に理屈を並べ立てても、いいグラフィックはできないけれど、時々、あ、これだって。山でおいしそうなキノコを見つけた感じです。
佐藤 パッと光る感じですよね。
自分の外側にあるオリジナリティ
吉田 東京の実家にある事務所の壁も、さっきの工房みたいな模様なんです。同じような模様がついているおもちゃがあって、インドネシアのベンガルトラの人形で、こっちは福島の三春の張子。最初僕は、楽をしたくて最低限のストロークで壁面を埋めることを考えました。これもたぶん毛並みを最小限の労力で埋めたいからこうなった。5千年前の土器も同じ。僕が見つけた技法だけど、とっくに誰かがやっていて、僕の外側にもオリジナリティがある気がしていて、どうにか構造化して、デザインをしたりプロダクトを作ったりしていけないかと。構造化できれば僕じゃない人もできるわけだからクライアントに作り方をあげられる。

佐々木 アナログなプログラマーって感じですね。パソコンの画面上でミリ単位でポチポチと検証を重ねていくようなデザインとはずいぶん対照的ですよね。
吉田 以前デザインした、珈琲屋さんの豆のパッケージも、店員さんがマジックで描いて完成、としました。治具をつくり切窓を空けて、そこに何を描いてもかっこいい、みたいに全体のデザインを作ってあげて。みんなで模様を考えて、解釈は委ねました。くるくるは3回でも4回でもOK。
佐藤 誰が作っても同じように見えるのに、実は一個一個違う。
吉田 印刷の複製性の話とも関連があります。普通は99%同じだけど、 70%になってくると、全部違ってくる。一個一個エディションをつけたくなる。
佐藤 僕も自分の個性みたいなものを疑う機会が多くなってきました。むしろ「我」の要素をとっていったときに、自分に何が残るか考えます。
佐々木 僕はグラフィックデザイナーとしての自分のことを「管」のようなものだと思っていて。あるかもわからない個性を気にするのではなく、その時の条件や制約によって形を変え、その管からドロっと表現を排出する管になりきってやっている感覚なんです。
佐藤 見つけたときの感覚を「採集」と呼ぶのは、すごく吉田さんらしい。僕は自分で作らなきゃと思ってやっていました。「歩いていたらあった」って、そんな風に思いたい。根を詰めている時っていいレイアウトはなかなかできなくて。答えがどこかに転がっているとすれば、それを見つけにいったらいいですもんね。

秋田だから。山形だから。
佐々木 「ハラカラ」はここでしか読めない、新しい文化に触れられるような記事が毎回あって、新聞という媒体を通してそれを老若男女が目にする。それが面白くもあり難しいところですよね。フレッシュさも出したくて、文字色の変化にチャレンジしたりしています。毎回上がりを見ないと予測できない部分もあって、実験しながらやっています。
佐藤 僕は秋田の新聞だからこうしなきゃとは意識してないです。秋田の人みんなに良いと思ってもらうことは難しいけど、もしかしたら毎月この紙面のデザインを楽しみにしてくれている人が、秋田のどこかに1人くらいはいるかもしれない。その人のために毎回特別なデザインを届けたい、という気持ちで作っています。そういう意味で、東京の展覧会のチラシを作るときと心構えは変わりません。
佐々木 吉田さんのことも「山形」という場所が理由で注目しているわけではなくて、唯一無二の個人として面白く見させてもらっています。東京だから、地方だから、とかいう色眼鏡で見ることはないです。東京での仕事同様に、たまたまその土地の仕事をさせてもらっているという感覚です。自分が東京にいることに大きな理由も、今は感じていないし。
佐藤 僕も福島の最北端の海側で仕事をしていて、今の僕がそこで何をやろうが、何を言おうが、福島は変わらないし、変えられないと思っています。ネガティブな意味ではなくて、何かを大きく変える力は僕にないけど、どこかにいる誰かをほんの少しなら変えることができるかもしれないし、そんな仕事ができたらいいなと思います。だからあえて「福島」を意識することはありません。
吉田 「秋田」とか「山形」とか「福島」とか「宮城」とか行政区で線を引いているわけで、「山形」にもいくつかのルーツがあって、それぞれの文化の流れはあると思う。もう一方で、時間軸でも考えられるんじゃないかと。誰かがボールを投げた放物線の先っぽで、僕らは今話をしていて、線の突端からどちらにいくか、文化のラインの中で、どっちにいくと、面白くなるか、だから。


吉田勝信(よしだ・かつのぶ)
1987年、東京都生まれ、山形県大江町在住。採集者・デザイナー・プリンター。山形県を拠点にフィールドワークやプロトタイピングを取り入れた制作を行う。近年の事例に海や山から採集した素材で「色」をつくり、現代社会に実装することを目的とした開発研究「Foraged Colors」や超特殊印刷がある。趣味はキノコの採集および同定。
佐々木俊(ささき・しゅん)
1985年、仙台市生まれ、東京都在住。AYOND(アヨンド)代表。2020年JAGDA新人賞受賞。最果タヒの著書、展示などのデザイン、19年展覧会「デザインの(居)場所」(東京国立近代美術館)、 21年展覧会「200年をたがやす」(秋田市文化創造館)、同年「NHK紅白歌合戦」番組ロゴなどのデザイン。著書に絵本『ぶるばびぶーん』。
佐藤豊(さとう・ゆたか)
1990年、福島県相馬市生まれ、福島県新地町在住。有限会社服部一成を経て、20年よりフリーランス。22年東京TDC賞受賞。17年「コンニチハ技術トシテノ美術」(せんだいメディアテーク)、22年「秋田公立美術大学2023(大学案内)」、23年「桑沢2023(卒業生作品展)」(桑沢デザイン研究所)などのデザイン。