社説:賃上げ目標5% 実質増実現で好循環を

 連合は2023年春闘の賃上げ目標を5%程度(ベースアップ分3%程度、定期昇給分2%)とすることを決めた。22年実績の2・07%を大幅に上回る。

 歴史的な物価高で労働者の生活は厳しさを増す一方だ。消費者が商品やサービスを買い控えれば多くの企業の業績は悪化し賃上げはさらに遠のく。この悪循環から抜け出すために労使ともに努力を重ね、物価上昇を上回る賃上げを実現してほしい。

 生鮮食品を除く10月の全国消費者物価指数は、ロシアのウクライナ侵攻を背景にした資源高や円安による輸入物価上昇などで前年同月比3・6%上昇した。第2次石油危機でインフレが長期化していた1982年2月以来、40年8カ月ぶりの高い伸び率。上昇は14カ月連続だ。

 物価上昇を加味した今年10月の実質賃金は前年同月比2・6%減で7カ月連続マイナス。現金給与総額は10カ月連続でプラスだったが、物価高に賃金の伸びが追い付いていない。

 政府はガソリン価格抑制策などを実施しているが、本格的な景気回復には購買力アップに直結する大幅な賃上げが欠かせない。連合の5%目標とその実現は労働者の生活を守ることに加え、日本経済の成長にも大きく関わる。

 企業側を見ると、円安の恩恵を受けて好調な業績を残している例も少なくない。7~9月期の全産業の経常利益は前年同期比18・3%増で、この時期としては過去最大。2021年度の企業の内部留保は516兆円と初めて500兆円を超えた。

 23年春闘に関して経団連の十倉雅和会長は「労使が協調し、物価と賃上げの好循環を回していきたい」と発言、会員企業に賃上げを促す姿勢を示している。こうした機運を生かしたい。

 業績不振が続く企業には賃上げを可能とするための支援が必要だ。政府は10月にまとめた総合経済対策で、中小企業の賃上げを後押しするとしている。具体的な施策は生産性向上のための補助金拡充や、下請け業者が資材価格上昇分を適正に価格転嫁できているかどうかの監視強化、資金繰りの円滑化などだ。

 中小企業は全労働者の7割近くを抱える。その賃上げがなければ景気はさらに冷え込むだろう。政府は総合経済対策にとどまらず、中小企業の賃上げ支援をさらに強化すべきだ。

 岸田文雄首相は23年春闘を「成長と分配の好循環に入れるかどうかの天王山」と位置付け、「労使の機運醸成に全力を挙げる」と強調している。にもかかわらず、防衛費増額の財源確保に関わる議論では、法人税の増税が検討されている。来年度は増税は行わないというが、賃上げの機運に水を差すことにならないか。

 物価上昇が続いてもそれ以上の賃上げにより国民の消費意欲が喚起されることが重要だ。経済の好循環に向けた環境を整えることは政府の責務である。

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