社説:花輪中の起業体験 地域社会への貢献期待
本県の小中高校で「ふるさと教育」が始まって今年で30年目。自分たちの住む地域の特徴を学ぶことを目的に、主に「総合的な学習」の時間を活用して実践されている。地域と協働しての商品開発など、キャリア教育と結び付けて取り組む学校もある。地域社会への貢献を視野に入れたふるさと教育がさらに広がることを期待したい。
鹿角市の花輪中学校は昨年度から起業体験プロジェクトを展開。地域課題の解決に寄与する事業を行うために生徒が模擬会社を立ち上げ、運営している。地域課題を「自分ごと」として捉え、積極的に関わる意識を高めるため会社という責任を伴う形を取った。
本年度は全校生徒337人が11の模擬会社のいずれかに所属。イベント運営の模擬会社は10月の市制50周年記念事業で進行役を担った。他にも▽地場の農産物を活用した商品開発▽地域の食や祭り、温泉のPR▽地元の文化を発信する演劇公演▽クマやハチの忌避剤開発―など事業内容は多彩だ。
全ての事業が順調だったわけではない。新型コロナウイルス感染防止のため、想定した活動を行えなかった会社もあったという。そうした場合も、どう軌道修正するか考えることは、生徒にとって貴重な体験になったはずだ。
また、秋田活性化中学生選手権(秋田魁新報社主催)には模擬会社の社長を務める11人のうち5人が出場。県北大会で優秀校に選ばれ、全県大会では審査員特別賞を受賞した。地元の職業人をリストアップした「ノウハウバンク」をつくり、その知恵や経験を地域活性化に活用することを提案。事業を通じて地域社会と接点を持ったからこそ生まれたアイデアだ。ぜひ今後の具体化を目指してほしい。
起業体験の学習効果は生徒へのアンケート結果に表れている。本年度の活動前後に▽課題解決能力(情報の理解・選択・処理など)▽キャリアプランニング能力(将来設計・選択など)―など4分野12項目について自己評価を尋ねたところ、活動後は全項目で平均の数値が上昇した。生徒が成長を実感できたことは自己肯定感の向上につながり、来年度の展開に向けた励みにもなるだろう。
文部科学省は2016年度から、小中学校の起業体験を推進している。今年3月発行の実践事例集では、二ツ井小・中(能代市)の模擬会社が商品開発などに取り組んだことが紹介されている。過去には山田中(湯沢市)、八幡平中(鹿角市)、八峰町教育委員会なども文科省や独立行政法人・教職員支援機構から表彰された。
これらの事例はふるさと教育やキャリア教育の新たな展開を模索する学校にとって参考になる。地元の人々の協力を得て地域と学校の結び付きを深める意味でも、各校が検討する価値はあるのではないか。