ローカルメディア列島リレー(38)山﨑 暢(デリカ店主)
全国のローカルメディアの旗手が、どんなふうに、独自の発信の場を作っているのかを綴るコーナーです。紙もウェブも、ラジオもアートプロジェクトも、料理教室だって「ローカルメディア」に? 日々の取り組み、アイデアと奮闘の記録です。
灯台下暗し
「デリカ」を始める以前に東京のフランス料理店で働いていた際、日本から離れたヨーロッパから届く食材を扱って仕事をしていることに少し違和感がありました。
ある時フランスでストライキがあって、輸入業者から食材の到着が翌週に延びてしまうという知らせが。誰がどういった理由でストライキをしているのか、そもそも誰が作っているのか、疑問ばかりが生まれてきました。
そんな悶々(もんもん)としている頃、いつも見向きもしていなかった地元埼玉の産直でハッとするような食材と出会います。その一つが大滝村(現秩父市)周辺で作られる「三峯いんげん」という白いんげん豆。
買った時点では、まんまるの珍しい形に気をとられたくらいだったのですが、家に帰って煮て味見したら、びっくりするほど美味しかった。フランス料理にとって大事な、伝統的な煮込み料理「カスレ」などで使われる白いんげん豆に全く引けを取りません。
農家さんの話では、昔からその地域で作られている在来種で、外に回すなと言われているほど貴重なものだったそう。

こんな素晴らしいものがあるなら、他のものもあるはずだ、それがあればあんな料理もできる。驚きの発見が、新しい発見に繋(つな)がっていきます。埼玉県産のものだけでお店をやったら面白いかもしれないなと自分のツボを見つけたのです。そしてそのままの思いでお店を開業しました。
あるものを使う。何があっても、その日に収穫された食材を自分で調達する。手の届く範囲の中で最大限を引き出す。今まで働いてきたどこにもこの形はありませんでした。これが自分の形になりました。お店に来てくださった方々それぞれの故郷や生活圏にも新たな発見があるに違いないと思っています。

【やまざき・とおる】1986年、埼玉県生まれ。さいたま市大宮区にある飲食店〝デリカ〟の店主。お店を構成するものは、ほぼ埼玉県産のもののみ。ジャンルは特になし。ないものは使わない。