積極的に諦める。陶芸家・田村一の絶妙なバランス。 寄稿:矢吹史子

写真:在本彌生


 花弁、貝、動物の骨などを思わせる繊細で有機的なフォルム、雪の陰影を思わせるブルー、夕陽を思わせるピンクの彩色……その一つ一つから、どこか秋田の風土が漂う器たち。
 作っているのは、陶芸作家の田村一さん(48)。秋田市出身。大学進学とともに上京し、栃木県益子町で陶芸活動をしたのち、2011年に帰郷。秋田市仁別に拠点を構え、今年で11年となります。
 最近は、秋田県内の飲食店でも田村さんの器を使用する店舗が多く、全国でも数多くの展覧会を開催している田村さん。以前、あるインタビューに、こんなふうに答えていました。

 「秋田の好きなところは、積極的に諦めるところ」

 この言葉がどうしても忘れられず、その真意を伺うべく、工房を訪ねました。

制限の中で作ること


 工房のある秋田市仁別は、冬になると屋根と地面が雪で繋がってしまうほど雪深い場所。目の前に立ちはだかる膨大な雪を寄せなければ、先に進めません。そんな、抗(あらが)うことのできない状況を受け入れ、腹を括(くく)り、次に進むことを、田村さんは「積極的に諦める」という言葉にしました。その思いは、今も変わらないといいます。

 「東京や益子にいたときは、冬になると晴れていてカラカラに乾燥している。それが苦手でね。どんよりとした曇り空や、溢(あふ)れ出ちゃうくらいの山や藪(やぶ)がないのが物足りなかった。
 毎年、雪かきをするたびに、これが必要なんだよなって思う。大変なことは大事で、そういう制限の中でものを作るのが面白いんです」


窯(かま)の前で話す田村一さん。


土地との循環


 秋田に暮らし、試行錯誤を繰り返しながら作品作りをしてきた田村さん。最近は、その作品の特徴でもあるブルーやピンクの彩色の上に、一層、曇り空のフィルターがかかったような作品を見るようになりました。

 「これは、一度焼いた器を籾(もみ)に埋め込んでもう一度窯入れし、燻(いぶ)します。すると、器が煤(すす)を吸って灰色がのるんです。ほかにも、籾に雑木の灰を混ぜて作った釉薬(ゆうやく)を使い、白く濁るように仕上げたりもします」

 これら釉薬の原料は、秋田市や男鹿で作られた酒米、鹿角の林檎の木、横手の桃の木……どれも、秋田に暮らすなかで知り合った仲間たちから譲り受けたもの。コロナ禍で県外へ出られない時期、これまでできなかった「秋田県内を巡る」ということをしてみたことで、それぞれの土地や暮らしをよく知る機会になったといいます。

 「酒、米、果物……自分がふだん飲み食いしているものを盛る器を作ることで、ぐるんぐるんする(循環する)。ケミカルな釉薬だけだと仕上がりが均一ですが、地元の自然の素材を使うと、その時々で変わり、ジャズの即興のような楽しさがある。想像どおりの仕上がりは大事。でも、結果オーライな部分も大事にしたい。そのバランスが重要だと思っています」

一度焼いた器を再度窯入れ。籾で燻します。


 自ら釉薬を作るのには、籾や雑木の灰を水に晒し、3日に1度アクをとる作業を数カ月間続けなければならない。それでも田村さんは笑いながらこう話します。「手間がかかるのなんてどうでもいい。自分がやればいいだけのこと」

変わらないこと


 変化を楽しみながらも、制作のなかで変わらないことが二つあります。その一つが「轆轤(ろくろ)で作ること」


 「どの作品も、轆轤から生まれる丸い形を起点にしています。〈丸〉というある種の制限から、どんなダイナミズムを生み出せるかが面白い。轆轤を引いた後、乾燥する前にバーナーで形成したり、手捻りの要素を加えたり……」

 そして、変わらないことのもう一つが、熊本県の天草の土を使うこと。

 「秋田に住んでいるのに秋田の土を使わないことを不思議そうにする人もいるけれど、無理に使う必要はないと思っています。土を変えてみても、なんだか違う。天草の土が今は生理的に合う。

 今、籾や灰を使って、秋田の土地を活かしながら制作しているのは、自分に合うものと出合えたから。〈秋田〉のことをやらなければ、と、〈秋田〉を目的化するつもりはないし、試してみて、自分にとって良いものは取り入れるし、ダメなものはダメ。

 制作を通して秋田を良くしようとか、人がたくさん来たらいいとかは思わないし、都会から離れているのも仕方がないこと。でも、自分みたいな人間が続けていくことで〝秋田でもできることがある〟というのを体現できたらいいなと思っています」


●田村一展「かそけき しんにゅうしゃ」が開催されます。
日程:10月29日(土)、30日(日)、11月5日(土)、6日(日)
※10月31日(月)、11月4日(金)は事前予約でご来場が可能です。
会場:白白庵(ぱくぱくあん)東京都港区南青山2の17の14
☎︎ 03・3402・3021
時間:午前11時〜午後7時
●オンライン開催:10月30日(日)17時 ~ 11月6日(日)19時
白白庵オンラインショップにて https://pakupakuan.shop/

●たむら・はじめ
1973年、秋田市生まれ。秋田市仁別に工房を構えながら、全国で展覧会やグループ展を開催している。www.tamurahajime.jp

●やぶき・ふみこ
秋田市在住。編集者。秋田県発行のフリーマガジン「のんびり」や、ウェブマガジン「なんも大学」などでの編集、執筆、企画を経て、今年7月には、秋田の豆腐文化をつなぐべく、豆腐のテイクアウト店「豆腐百景」をオープン。

●ありもと・やよい
写真家。外資系航空会社で乗務員として勤務後、フォトグラファーとして活動。衣食住にまつわる文化背景の中にある美を写真に収めるべく世界を奔走している。写真集に『MAGICAL TRANSIT DAYS』『わたしの獣たち』『熊を彫る人』など。

土と籾(もみ)と糠(ぬか)と麹(こうじ)とミルク


 福岡県出身のシェフ簑原祐一さん(36)は、妻の故郷である横手市在住。東京広尾の「ア・ニュ」、銀座の「ロオジエ」など超一流フレンチレストランを経て、9月に「Ichi(イチ)」(秋田市山王)をオープンしたばかり。簑原さんのコース料理の最後に登場するデザートも、田村一さんの器で供されます。
 自家製のアイスクリームをひと口含むと、ミルクの香りの奥に、香ばしいキャラメルのような独特の風味。これは、米糠をローストしたものと味噌たまりを混ぜ込んであるため。甘みも麹由来です。田沢湖で味噌たんぽを食べたときの甘じょっぱさをヒントにしました。籾で燻した器を選び、この一品で「米一粒」が表現されています。

写真:高橋希

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