社説:イプシロン失敗 原因究明し開発前進を

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型固体燃料ロケット「イプシロン」6号機が、打ち上げに失敗した。民間の小型商業衛星の打ち上げを初めて受注し、搭載した衛星を宇宙空間に放出する計画だったが、実現できなかった。

 観測や通信用などの小型衛星を打ち上げる需要が世界で増大する中、今回の失敗で市場参入への遅れは避けられない。JAXAは早期に原因を究明した上で打ち上げを再開し、日本の宇宙開発を前進させてほしい。

 イプシロンは日本の主力小型ロケット。液体燃料を使う大型の「H2A」「H3」と異なり、エンジン構造が簡素で済む固体燃料を使用する。打ち上げ前の機体の点検に人工知能(AI)を活用するなど、準備作業を大幅に効率化。2013年に1号機を打ち上げ、昨年の5号機までは成功を続けていた。

 今回は発射から6分半後、姿勢が乱れたため地上からの信号で破壊。積んでいた衛星ごとフィリピンの東方沖に落下したとみられる。姿勢制御装置の一つが正常に働かなかったという。

 本年度内に1号機の打ち上げを目指すH3の姿勢制御装置には、部品に同型の弁を使っている。H3の打ち上げに影響を出さないためにも、今回の原因究明を急がなければならない。

 これまでイプシロンは技術実証衛星などを打ち上げてきた。今回の6号機が積んだ衛星は8機で、このうち商業衛星は福岡市の企業から受注した2機。防災に活用する観測用だった。

 こうした商業衛星を中心とする小型衛星の打ち上げ需要が世界で拡大。米コンサルティング企業によると、世界の打ち上げ数は12~19年の計1731機から、20年1202機、21年1743機と急増している。

 日本ではH2Aが既に商業衛星を打ち上げているが、大型ロケットに比べ高頻度で打ち上げが可能な小型ロケットへのニーズは今後も高まるだろう。開発の歩みを止めてはならない。

 米国の新興企業などとの価格競争が激しい中、コスト低減に向け、JAXAは改良型の「イプシロンS」の開発も進めている。その運用は民間に移管する計画。さらにH3と部品の一部を共通化したい考えだ。

 衛星打ち上げの民間移管は、コスト低減の観点から世界的な流れとなっている。とはいえ、今回の失敗にコスト低減の取り組みが影響していなかったかどうかの検証が必要ではないか。

 本県は日本のロケット開発を支えている。JAXA能代ロケット実験場でイプシロン、三菱重工業田代試験場(大館市)ではH2AとH3のエンジン燃焼試験が行われてきた。宇宙を身近に感じる県民は少なくない。

 今回の失敗を機に、JAXAは信頼回復に向け、積極的に情報を公開しながら技術開発を進めてほしい。需要開拓の遅れを取り戻すため体制の強化も図るべきだ。

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