社説:物価上昇3% 家計への影響、一層深刻

 9月の全国消費者物価指数は前年同月比3・0%上昇した。消費税増税の影響を除くと、1991年8月以来約31年ぶりの上昇幅となる。円相場は一時1ドル=150円の大台まで下落。円安が物価をさらに押し上げる。物価上昇が家計に及ぼす影響は深刻さを増す一方だ。

 項目別では生鮮食品を除く食料が4・6%上昇と81年以来約41年ぶりの高い水準となった。エネルギーは16・9%上昇。このうち電気代は21・5%、都市ガスは25・5%の上昇。これらはいずれも生活に欠かせず、家計への打撃は大きい。

 3%の物価上昇について鈴木俊一財務相は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原材料価格の上昇と円安による影響と説明している。そのウクライナ情勢は出口が見えず、円安には全く歯止めがかかっていない。

 10月は大手飲料メーカーが、ビール類など多くの商品を一斉値上げした。さらに11月は生乳の取引価格上昇で多くの乳製品が値上げを予定している。こうした実態を見れば鈴木財務相の「切れ目のない対応を講じる」という言葉が空疎に響く。

 開会中の臨時国会では、これまでのガソリンなどの小売価格を抑制する補助金に加え、電気代や都市ガス料金の負担軽減を図る物価高対策が議論されている。本県など寒冷地では既に暖房需要が高まる季節を迎えている。対策の内容や規模、対象などを早急に固めなければ本格的な冬の到来に間に合わない。

 31年ぶりの物価上昇率だが、当時はバブル景気からの後退局面で春闘平均賃上げ率は5%台後半を維持。今年の約2%より大幅に高かった。物価の3%上昇による家計負担は現在の方が格段に重いといえよう。

 来年の春闘で連合は要求水準を久々に引き上げ、定期昇給分と合わせ5%程度の賃上げを求める方針。ただ近年の実績は2%前後で推移してきた。経済団体側から「相当に厳しい」という声が上がるなど中小企業を含めた5%実現の道筋は険しい。

 円安や資源の高騰で原材料の仕入れ費用が増え、収益減となった企業が利益確保のため、やむを得ず値上げに踏み切っているといわれる。買い控えなどが生じる可能性もあり、賃上げに回す余裕があるとは限らない。

 臨時国会冒頭で岸田文雄首相は訪日観光客増など円安のプラス面を強調。これでは楽観が過ぎる。物価高への影響などマイナス面も直視すべきだ。

 物価高や円安はウクライナ危機などに直面して、浮き彫りになった日本経済の弱点といえないか。10年続いた「アベノミクス」もその成否をしっかり検証すべき時期だろう。

 エネルギーの安定供給、食料自給率の向上については経済・食料安全保障の観点から取り組み強化の検討も必要だ。何より値上げで利益を確保した企業がその分、賃上げを行うように促す政策が求められる。

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