北斗星(9月25日付)

 観測史上最強の勢力になるかと一時は警戒された台風14号が近づいた未明、屋根をたたく激しい風雨に目が覚めた。天気予報通りと慌てずに済んだのも、進路予想を目にしていたから。昔であればこうはいかなかった

▼かつて秋ごろに吹く暴風のことを「野分(のわき)」といった。明治期編さんの国語辞典「言海」は「野草ヲ吹キ分クル意 秋冬ノ際ニ吹ク疾風(ハヤチ)ノ名」と記す。台風を主に指したとされ、今でも歳時記の秋の季語にある

▼「大いなるものが過ぎ行く野分かな」。1934年9月の室戸台風に際し、高浜虚子はこう詠んだ。911・9ヘクトパスカルという記録的な最低気圧で上陸、全国で死者不明者3千人余りを出した超大型台風だ

▼詳細な進路予想図も衛星画像もなく、台風の規模を事前に知るすべもなかった時代のこと。次第に強さを増しながら吹き荒れ、大きな爪痕を残した末にようやく静まる暴風は、当時の人々にとってどれだけ不気味な存在だったことか

▼それを「大いなるもの」と畏敬の念で捉え、名句を吟じた感覚は近代俳句の巨人たるゆえんだろう。だがそれは同時に、はるかかなたの情報を瞬時に伝えるテクノロジーなどなく、自然の脅威と生身で向き合うしかなかった時代に養われた鋭い感受性にも思える

▼14号の風が収まった朝、庭ではナスの茎の支柱が倒れていた。句作のきっかけにもなろうかという場面ではあるが、こちらはスマートフォンで台風が過ぎ去ったことを確認し、一息つくだけだった。

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