お値段以上、ジドリ♪ 思わず口ずさんだ比内地鶏コースの夜

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秋田県の特産品・比内地鶏を秋田県人が家で食べるとき、きりたんぽ鍋の具材に使う家庭がほとんどではないでしょうか。「だしを取るには最高!」だと知っているけれど、鍋料理以外になじみがない人は多いかもしれません。この企画の【昼編】で比内地鶏の親子丼(2杯)を堪能したばかりですが、まだまだ知らないおいしい食べ方があるはず。「地鶏欲」が抑えきれなくなった記者は、同じ日の夜に比内地鶏のコース料理を出すお店へと向かったのでした。
(加藤倫子)

【夜編】鳥天狗

秋田市の南大通り沿いにある鳥天狗(とりてんぐ)は、鶏料理をコースで楽しめる専門店。焼き鳥店かと思ってしまいますが、鶏のさまざまな部位を独創的な調理法で出してくれます。店を切り盛りするのは石川県出身の甲野隆紀さん(41)。東京・豊島区に店を構え6年営業した後、男鹿市出身の奥様の出産を機に秋田市に移転。仁井田で3年、2018年から現在地で営業を続けています。東京時代から「料理人として、比内地鶏は使ってみたい憧れの鶏だった」といいます。

食通の知人や飲食店関係者から噂は聞いていたこのお店。「一度は行ってみたいなぁ」とひそかに思っていました。比内地鶏のみのコースは8800円、比内地鶏、若鶏、親鳥を使ったコースは5500円(いずれも税込み、飲み物別)。今回は取材ですのでもちろん8800円のコース。私にとっては勇気のいる値段ですが、どんな料理が出てくるのか期待に胸躍らせながら、お店の扉を開きました。

お値段以上、ジドリ♪

あれこれ書く前に言っておきたい。
全12皿のコースは「お値段以上、ジドリ♪」と口ずさみたくなるぐらい大満足でした。

比内地鶏の仕入れ値は1羽5000~6000円だそうです。「仕入れ先の農家さんは1日50羽ほどしか出荷しません。本当は子どもたちにも地元の特産品ということで味わってもらいたいですが、家で食べるには安くはないですよね」。原価からすればコース料理は妥当な価格設定でしょう(この日は2人で訪問)。シンプルに焼いた希少部位からスパイスに漬け込んでタンドリーチキン風に味付けした一品、ご飯もの、かつおだしベースの汁ものなど、変化に富んだ品々。五感が喜びました。

食材に対する親しみを間違いなく倍増させてくれたのが丸鶏の〝解体ショー〟です。甲野さんが特徴を説明しながら慣れた手つきで部位を切り分けてくださいました。

素人目で見ても分かる皮の脂の黄色さが上質な証。

甲野さんに各部位の特徴をまとめていただきました。

(左上のバットを①として時計回りに)

①鶏皮…左がお尻付近の皮で右が首の皮です。皮も部位ごとに厚みや色が違います。

②ササミ…若鶏に比べて比内地鶏のササミは多少水分が少ないというか締まりがある感じですが、そこまで大きな違いはないかなと思います。

③(上から)モモ肉の骨、鶏ガラ、手羽…スープ用に使います。秋田の人は自宅で鶏ガラスープを取ることも多いので馴染み深いかもしれませんね。こちらの写真の鶏ガラは、首の肉(セセリ)を取る前です。細い首にも少量ですが肉があり、包丁をギコギコと動かしてほじり取ります。ちなみに関西ではこの作業を「せせり取る」というそうです。よく動かす部位なので食感がとても良いですが少量しか取れません。

④モモ肉…上側が膝下(スネ)、下側が膝上(モモ)です。スーパーなどでは、モモ肉が1枚で売られていることもありますが膝上と膝下では肉質などに違いがあります。

⑤ムネ肉と肩肉(左)…小さく切った方が肩肉です。トロ肉、なんて呼ばれたりもします。

⑥上から、ハラミ(筋肉の膜)、赤みが強いのがソリレス(もも肉の付け根辺りの骨のくぼみにある丸い肉)、左下がボンジリ(尾骨の周りのお肉)、右下が腰あたりの肉。希少部位になります。甲野さんは、仕入先の農家さんの鶏のボンジリにほれ込んで、取り引きをお願いしたそうです。

切り分けられた部位はどれもこれも美しく、その肉感はプロアスリートの筋肉のようなしなやかさがあります。我々はさばく様子を見守っていただけなのに、何度「うまそう…」と口にしたことか。生の状態でも本能に働きかけてくる鶏は初めてかもしれません。

まるで恋人の新たな一面を知っていくよう

初めての比内地鶏コースは、付き合いたての恋人と時間を過ごしていくうちに、今まで知らなかった一面を知っていくような感覚でした。

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