東北・新潟みらい会議(1)ワーケーション推進(福島県北塩原村) SDGsを入り口に

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 持続可能な地域づくりに向けた取り組みが各地で広がっている。ワーケーションの推進、デジタル技術を活用した漁業、農産品の輸出拡大…。少子高齢化による労働力不足や人口減少などが懸念される中、こうした動きはさらに加速していくとみられる。秋田魁新報社は、東北と新潟の有力紙8社共同で「東北・新潟みらい会議~あしたをつくる、地域の新たな可能性~」と題し、8回にわたって各県の取り組みを紹介する。

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 福島県を代表する観光地、北塩原村の裏磐梯地区で、旅先で働く「ワーケーション」の先駆的な取り組みが進む。働く環境の整備や余暇の充実に加え、「学習の場」としての魅力を発信しているのが特徴だ。事業に取り組む裏磐梯観光活性化協議会の中心メンバー、皆川大樹さん(44)=アクティブリゾーツ裏磐梯=は「持続可能な開発目標(SDGs)を入り口に研修旅行の誘致につなげ、ワーケーションの聖地を目指したい」と話す。

「富良野自然塾」の裏磐梯校でインストラクター(中央)から地球の歴史や森林環境などの説明を受ける参加者=2021年9月、福島県北塩原村・グランデコリゾート

 「新しい旅行モデルを構築し、誘客につなげたい」。皆川さんらが、観光庁の実証事業の一環としてワーケーションの取り組みを本格化させたのは昨年秋。皆川さんが中心となって事業内容を企画し、それまで温め続けていたアイデアを一挙に実現させた。

 最初に取り組んだのは、利用客をサポートする「案内人」の配置と、周辺飲食店のテークアウトメニューを部屋まで届ける配達サービスだ。「まずは仕事の時間を快適に過ごしてもらいたかった」(皆川さん)

 もう一つのこだわりは「連泊しても飽きさせない工夫をすること」。庭園での早朝ヨガと夜の星空ヨガに加え、近隣にある諸橋近代美術館ではキッチンカーの出店や夜間ライトアップを企画。食べる楽しみも「大事な息抜きになる」と考え、スイーツの食べ歩き企画では、地元ならではの個性的な甘味を紹介した。

 事業の柱に「学習の場」を据えたのは、裏磐梯が豊富な自然や、多彩な学習資源に恵まれているからだ。

野菜収穫の体験イベントで地元農家(左)から説明を受ける皆川さん(左から2人目)と参加者=2021年9月、福島県北塩原村

 北塩原村のグランデコリゾート内には、脚本家の倉本聰さんが考案した地球の歴史や森林環境の大切さを伝える「富良野自然塾」の裏磐梯校がある。2018(平成30)年、東北で初めて開校したこの自然塾では、地球誕生から46億年の歴史を460メートルの自然道で解説する「地球の道」など、自然やSDGsを学ぶプログラムが体験でき、ワーケーションのメニューの一つにもなっている。

 協議会はこのほか、食べずに捨てられる食品ロスが学べる「ロハス食育体験会」やガイド付きの野菜収穫体験、トレッキングなども企画。参加者からは「家族一緒に楽しめて学習もできる」と好評だ。皆川さんは「これらのイベントを充実させ、企業からワーケーション候補地に選ばれるモデルをつくりたい」と意気込む。

 皆川さんは北塩原村に隣接する猪苗代町の出身で、ホテル勤務歴は20年になる。野菜収穫の体験イベントで同級生の農家に協力を依頼するなど、地元ならではのネットワークを事業に生かす。「地元野菜もスイーツも、以前からスポットを当てたいと思っていた。ワーケーションから地域への経済効果が出てくる仕組みづくりも考えていきたい」と今後を見据える。

 (福島民友新聞社猪苗代支局・伊藤雅将)

皆川さんに聞く 飽きられないよう工夫


「滞在者の方々に喜んでもらえるイベントをどんどん仕掛けていきたい」と話す皆川さん=2021年11月、福島県北塩原村

 ワーケーションの普及に取り組む皆川さんに、興味を持ったきっかけや手応え、今後の展望などを聞いた。

 ―ワーケーションに興味を持ったきっかけは。

 「コロナ禍が始まってすぐに『働き方が変わる時代が来る』と興味を持ったが、その一方で『国内でなじむのか』という疑問もあった。企業側が示すハードルは高いのではないかと思い、『それならSDGsを入り口にしよう』と考えた」

 ―なぜSDGsなのか。

 「ワーケーションとは一見かけ離れて見えるが、企業から理解を得やすいという点で親和性は高いと思う。自然豊かなところで心身ともに良い状態になれて、SDGsを切り口に環境保全や社会貢献を学べるということであれば、研修旅行に最適な場所として認めてもらえるのではないか。裏磐梯には富良野自然塾裏磐梯校などの学習プログラムも豊富にある。この二つの軸を融合させた新しい旅行モデルの構築を協議会として実現させたい」

 ―イベントもめじろ押しだ。

 「連泊しても飽きられないように、イベントを切れ目なく入れることにこだわった。早朝のヨガから始まり、日中は野菜収穫体験や環境保全が学べるトレッキング、夜は星空ヨガや近隣にある諸橋近代美術館のライトアップを企画した。ホテルの食事に飽きた場合には、周辺飲食店のテークアウトメニューを部屋に届けるサービスも提供した」

 ―事業の手応えは。

 「各宿泊施設が『これはワーケーションの専門プランをつくる必要があるな』と動き始めたのが良かった。イベント展開や連泊プランの充実につながっている。特に美術館ライトアップへの反響が大きく、観覧に千人以上が集まった。今年は美術館で音楽家を招いた庭園コンサートも企画中で、誘客の起爆剤にしたい」

 ―今後の展開は。

 「ワーケーションをキーワードにして地域全体に熱を帯びさせることが大事で、地域の方々の協力が不可欠だ。収穫体験の農家さんやトレッキングのガイドさん、スイーツ店の店員さんなどに『また会いに行きたい』と、参加者に思ってもらえると、リピーター獲得につながる。滞在者と地域の方々が関係性を持つような取り組みを続けていきたい」

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