社説:核禁止条約会議 参加は被爆国の責務だ

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 核兵器禁止条約を批准した国・地域による初めての国際会議が、来年3月にオーストリアで開催されることが決まった。条約は今年1月に発効。核兵器を全面的に違法とした史上初の国際法規だ。

 「核兵器のない世界」の実現を目指す条約には広島、長崎の被爆者の強い願いが込められている。しかし日本は、世界で唯一の戦争被爆国でありながら参加していない。

 米国の「核の傘」に依存していることが主な理由だ。果たして不参加のままでいいのか。少なくとも、オブザーバーとして会議に参加すべきだ。

 日本が参加する意義は大きいと言わねばならない。高齢化が進む被爆者の思いに応えるとともに、戦争被爆国として核兵器廃絶への明確な意志を全世界に示すことができるからだ。

 条約の文言には被爆者の思いが結実している。核兵器使用の被害者である被爆者について、ローマ字で「hibakusha」と表記。その「受け入れ難い苦しみと被害を心に留める」と記した。

 「核抑止力」については核兵器を「使用するとの威嚇を行うこと」と定義。禁止事項に挙げたことも画期的だ。

 万が一、偶発的に核兵器が使用されれば被害は想像を絶する。にもかかわらず、使用を判断するのは一握りの人間でしかない。その不合理と恐ろしさを考えれば、被爆者の願う廃絶こそ「現実的な道」のはずだ。

 だが政府のトップである菅義偉首相には、そうした認識が足りないようだ。「原爆の日」に広島で開催された式典では、あいさつの重要な部分を読み飛ばした。「わが国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」といったくだりだ。

 原稿の一部がのりでくっついてめくれなかったのが理由というが、事前に一読していれば気付いたはずだ。読んでいなかったとすれば、原爆の日への関心が希薄だと言わざるを得ない。肝心の核兵器禁止条約への言及もなかった。

 条約が発効したとはいえ、世界の現実は依然厳しい。核弾頭総数も大して減っていない。今年1月時点で昨年同時期より2・4%減少したが、総数は保有9カ国で推計1万3千個を超え、米ロだけで約9割を占めた。

 米ロ英仏中の核保有五大国は条約自体を拒否している。これに対して条約を批准しているのは50カ国・地域を超す。小国が多く、キューバ危機や核実験の脅威にさらされた経験がある。大国に抗して小国が力を合わせ、廃絶に立ち上がる構図だ。

 被爆国の日本の責務は何か。小国と足並みをそろえて最終的に条約を批准するとともに、大国に粘り強く働き掛けて、核兵器を廃絶した平和な世界を一日も早く実現することだ。